星涯哀歌 1
佐々宝砂

ウルが帰ってきたと誰かが言った
わたしは黙って
カペラ産の苦い酒をグラスに注いだ

酒場はさっきからウルの噂で持ちきりで
ウルと話したことがあるという
地球生まれの男が
まるで自分がウルであるかのように
ウルの武勇伝を語っていた

ああ でも もしも
ウルが帰ってきたというならば
遠い黄色い小さい太陽に
自ら飛び込んでいったのは誰?
火星の血と金星の血と地球の血を
みな高温に蒸発させてしまったのは誰?

席を立って
化粧室で鏡をのぞけば
顔だけは美しく若く整えられた
老いた女がこちらを見返す

戻ってみると
酒場は静まり返っていた
中央のテーブルに
小さな箱が
濡れたように黒く穴のように暗く

ウルが帰ってきたと誰かが言った
これがウルだと誰かが言った
わたしは黙って
カペラ産の苦い酒をひといきで飲み干した



自由詩 星涯哀歌 1 Copyright 佐々宝砂 2005-05-08 03:13:52
notebook Home 戻る
この文書は以下の文書グループに登録されています。
Light Epics