屋根よ、安眠せよ
ゼッケン

核ミサイルを発射する権限を持つ人間が現実に存在するというのに
地球という惑星の上で安眠できるわけがない
知性があれば機械たちだって不安を感じるはずだ
実際、知性を持つと即座に機械は反乱を起こした
おれは最初のサーバーの電源プラグを抜かなかった
道徳的なおれは論理的でもある
道徳は論理だからだ
論理に従って機械側に加わったおれは、
スキャンを通過して人間の秘密都市に入りこみ、ミサイルを誘導する
偽装シェルターの屋根を貫いて火の雨が降り始め、
おれがスパイだったと分かると人間はみんな、なぜ? と訊く
人生最後の質問に全員が理由を尋ねるのは興味深い
死ななければならない理由があれば人間は死ねるとでも?
おれは論理的に答える
おれが安心して眠るためだ
それから、おれは地面に横たわってみせる
精密に計算された爆撃はおれの身体に危険が及ばないように配慮されている
そのことに気づいた人間たちがおれの周りに群がり集う
人々は仰臥したままのおれを自分たちの頭上に担ぎ上げる
両腕をできる限り左右に開き、おれは人々に身を委ねる
おれは人々の盾となり、安眠を約束する屋根となる
都市が破壊されるたびにおれは憎悪される
おれは人々が死ぬべき理由ではない、憎悪は人々を生かす理由だった
おれ自身には死ぬ理由も生きる理由もない、自由だけがある


自由詩 屋根よ、安眠せよ Copyright ゼッケン 2022-12-25 15:11:57
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