ペガッサ星人(ウルトラセブン)
角田寿星

                    
祖母の家はルピナスだった
そして今
母の庭にはハナニラが咲き誇っている
手応えのない薄い葉を握りしめ
外来の雑草の顔立ちの良さに
草刈りの手を ふと止めて

仏壇に手を合わせ言葉を交わす あるいは
言葉を交わすつもりで話しかける
使う人の居なくなった鏡台に腰かけて
髪をゆっくり掻き上げた腕の向こうに
手をひろげたヒラメさんが立っていた

ヒラメさんとの
しずかな生活が
はじまった

他愛のない話をした
絶えてしまった集落や鉄道
崩落したまま修繕されないトンネルの話
滅びゆく または滅んでしまった種族
隣の犬がまた吠えている
ダーク・ゾーンの世界について
人間関係の煩わしさに
誰かの糸が プツンと切れてしまった日
それでも住む星があるのは
素敵なことなんだ とヒラメさんは云った

木洩れ陽のなかをヒラメさんと歩く
またはダーク・ゾーンに行ってしまったままの
ヒラメさんの残像と 歩く
たとえばきみが成層圏をぬけた時に
振り返るとそこに地球がなかった時の気持ち……
たとえがわるかったかな
眼の前の風景が突然消えてしまったり
それならば 空気がなくなっていく恐怖や
人類最後のひとりに
きみがなってしまったとしたら

首を傾げてほほえんだのは
どちらだったんだろう

もういちど やつに逢いたいな
モロボシ・ダンは確かにそう呟いた
ウルトラセブン……うん 名前だけは知ってる
ヒラメさんにもういちど逢って
彼は ウルトラセブンはどうするつもりだったのか
なにもない もう なにもないよ
眼をとじたヒラメさんは
少し消えそうになって応えた

はじまりは
ちいさな食い違いだった
いつのまにか軌道修正が不可能になり
互いに致命的な衝突が
避けられなくなった
無駄になってしまった葛藤や駆け引き
突然の機能全面停止
ペガッサ星のすべてが
失われた

間接照明の向こう側に
限りなくうすい影がいくつもに伸びて
鏡のなかのようにゆらゆらと輪郭がうごく
おやすみ。
今日も なにもない一日だった。
灯りを消す前に眼をとじる
眼の前のなにもかもが
ふっ と消える


自由詩 ペガッサ星人(ウルトラセブン) Copyright 角田寿星 2022-12-18 10:40:34
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