信じる
フェルミ

殴り書き
しかできないぼくの
不誠実を
非難したいならすればいい

 *

「さとう」の三文字を書いた
マジックペンはまだ
筆箱に入っている
この、
「さとう」
の、三文字を書いた
手はもう、ない

クリスマス、少し早いけど
きみはぼくにコートをくれる
ぼくは障害年金からひねり出した
2万円で
きみに時計をプレゼントする
クリスマスだってのに、
桜のきれいな
時計をプレゼントする
いつか、生活費を切り詰めた
3千円で
時計をプレゼントしたことがあった
3千円の時計をうれしそうに
本当にうれしそうに
つけていた手首はもう、ない
あれもピンクゴールドだった

ぼくは平気な顔をして
きみを家に呼ぶ
きみは料理を作ってくれる
「さとう」と書かれたケースから
砂糖を取り出して
すき焼きをたれから作ってくれる
ぼくは平気な顔をして
すき焼きをたいらげ
君とキスをする
きみとセックスをする
きみがベランダで
京都の夜景を眺めながらタバコを吸う
  ――ぼくの家は山の中腹にあるから
ぼくは
セックスのあと
必ずタバコを吸っていた女を知っている
ぼくはタバコを吸わない
きみに、「美味しい?」と訊く
きみは、「美味しい」と答える。
全く同じ会話を
したことがある
奈良の馬鹿みたいな田舎で

彼女の残した
すべてが形見になる
きみはぼくへの愛をあらわには語らない
彼女はぼくへの愛をあらわに
とてもあらわに 告げた、告げた、
いくつかの詩集
バレンタインデーのチョコレートが入っていた箱
やさしい手紙
おそろいだったマフラー
お金がなくてボロボロの靴を履いていたぼくにくれた
ちょっとサイズの合わないスニーカー

ストロングゼロにサイレースを溶かして
ブルーハワイだ!って笑いながら
イッキ飲みした
それから、LiSAの「シルシ」を熱唱した
「あたしは絶対に死なない」
「絶対に幸せになってやる」と言った女の
飛び込んだ駅に行った
とても晴れた日で
女の好きだったチューリップは季節外れで店頭になく
なにかべつの花を供えた
駅を通過する特急列車に
怯えた、泣いた、そして祈った
ぼくはとてもひどいやつだったろう

 *

鴨川沿いをきみと
将来の話をしながら歩く
ベッドは分けて、個室を作ろう
結婚式はあげなくていいけど、
結婚指輪は絶対に買おう
とびきりに良いやつを。
だからお金を貯めよう
ちゃんと働こう
京都に住もう、京都に住もう。
京都に住むことを夢見ていた女を
ぼくはもうひとり知っている
でも、
きみを愛する。
きみを選ぶ。
きみとの将来を語りあう。

 *

ぼくは神を信じている。
彼女と、また会えることを信じている。

幸せになろう
幸せになろうよ
手をつないで橋を渡ろうよ


自由詩 信じる Copyright フェルミ 2022-12-12 18:48:02
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