理由
由比良 倖


私は呼吸を無駄にするだけ
薬を噛んで魚になる
透明な時計台が見えて その回りを
死んだ子供たちが 永遠に
飛び巡るのを見ていた 光の輪につつまれて
私は虹の一部だった 手負いの
動物の化石みたいに長いこと 涙の
流し方を忘れたまま

葉っぱで出来た店が
タオルケットのように拡がり
ながら私の故郷の森を包む 私は
名前のない落ち葉だった

地球の端へ引っ越す
予定なのです けれどまだまだ
ここにも深い青空があって

宇宙が滅びる季節ではないので

いまだここに息づいている 遠い
遠い信号灯が 私を 途方も
なく悲しくさせてしまう 存在
理由も名前もなく そう、ただ泣く為の
温度があるばかり

全ての光の帰路へ
今日の私を捨てに行く

閉じられた日記帳に囚われた
割れたブラックホール
みたいな憂鬱を 乱暴に
訳するように

みんな、みんな

充満した空虚だから




水晶は分かれ分かれ分散しながら、
いずれ液体になり いつか
私は理由もなく、泣けるだろう
それだけを私の唯一の存在理由として

理由のない私として
私が私として、生きていることのただしさは
何て、美しいことだろうと思います

笑みに笑みを返すことの毎日が、
あと何日か続けば、私はきっと……

私の潤んだ感覚は、いつか必ず
誰かの手に渡るだろう

郵便ポストの中の、黒い蝶のように

潰された瞳と
宇宙の軌跡を辿る羽を
持っているから


自由詩 理由 Copyright 由比良 倖 2022-11-12 13:43:02
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