人々のある日
◇レキ

人ごみに混じってブリキの人形が
中身空っぽの体かぽかぽ言わせて歩いている

人間でないことを
わかっていないのは本人だけだ

周りの誰しもが
異物の混入に気づいている

おっさんが
「おい!なんか混じってるぞ!」
とはやし立てても

「誰のことだろう?」と首をかしげている

ぼろ布を着て
無駄に度の強い眼鏡をかけて
ぎくしゃくと歩き
バスの停車場へ急いでいる







人間の役に立つために生まれたはずなのに
そのロボットは出来損ない、非力でノータリン
毎日老夫婦に世話されている

老父は
パワフルに働いている、彼と同じ型式のロボットを見て
「まだまだこれからだね」と、にこやかに笑う

椅子に座るだけのノータリンの胸から
消化不良起こしたギトギトの虚しさがあふれてくる

それを見て
「あら、油さしすぎたかしら?」
と、老母が不思議がっている







彼は正面から見ればなんてことはない
普通の人に見えるけど

その実、後ろは竹がむき出しで
生ごみとか藁とか引っかかっている

彼は突っ立っている事しかできない
惨めさや退屈、孤独やらから目をそらして
何もなくなった心で秋空を見ている

彼はしゃべれない かわりに
からす避けのスピーカーがついていて
死んだじいちゃんの怒鳴り声や
ぼそぼそした話し声を垂れ流している


暇を持て余した女の子が
つまらなそうにゲジマユをハの字にして話を聞いている

じいちゃんの声が
作っていた野菜の話をしている


自由詩 人々のある日 Copyright ◇レキ 2022-10-29 21:05:09
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