人々のある日
◇レキ
人ごみに混じってブリキの人形が
中身空っぽの体かぽかぽ言わせて歩いている
人間でないことを
わかっていないのは本人だけだ
周りの誰しもが
異物の混入に気づいている
おっさんが
「おい!なんか混じってるぞ!」
とはやし立てても
「誰のことだろう?」と首をかしげている
ぼろ布を着て
無駄に度の強い眼鏡をかけて
ぎくしゃくと歩き
バスの停車場へ急いでいる
※
人間の役に立つために生まれたはずなのに
そのロボットは出来損ない、非力でノータリン
毎日老夫婦に世話されている
老父は
パワフルに働いている、彼と同じ型式のロボットを見て
「まだまだこれからだね」と、にこやかに笑う
椅子に座るだけのノータリンの胸から
消化不良起こしたギトギトの虚しさがあふれてくる
それを見て
「あら、油さしすぎたかしら?」
と、老母が不思議がっている
※
彼は正面から見ればなんてことはない
普通の人に見えるけど
その実、後ろは竹がむき出しで
生ごみとか藁とか引っかかっている
彼は突っ立っている事しかできない
惨めさや退屈、孤独やらから目をそらして
何もなくなった心で秋空を見ている
彼はしゃべれない かわりに
からす避けのスピーカーがついていて
死んだじいちゃんの怒鳴り声や
ぼそぼそした話し声を垂れ流している
暇を持て余した女の子が
つまらなそうにゲジマユをハの字にして話を聞いている
じいちゃんの声が
作っていた野菜の話をしている