食べていく
葉leaf


散歩をする君は多彩で、私と妻が辿ってきた人生の来歴を一つ一つ口に放り込んでいるかのようだ。君は新しい景物にふれることで心身の底が熱され、ほとんど走るように前進しながら喜びの声を上げる。散歩をする君は流れ出し、この土地の巡ってきた地史を一つ一つ記憶の奥底に焼き付けているかのようだ。君は立ち止まってはドングリを拾い、マンホールを撫でて、歴史の細部を丁寧に食べていく。

私と君は同じ道を歩きながらも極めて遠くそして近い。一つの運動を共有していることによる心身の照応があり、君の喜びが果実となり私は幸福の果実を吸う。だが、私は君とは違った土地と時代の道を歩きすぎている。君と一緒に散歩するに至るまで私が辿ってきた道のりを一気に飛び越し、君は今の道を歩いている。だが君は今の道の中に私の辿ってきた道を巧妙に織り込んでいるかのようだ。

君は私と妻の歴史を食べる。私と妻と同じ道を歩き、その細部に気付いている君には、食べるべき果実がいくつも分け与えられている。君が落ち葉を踏むとき、君は私の過去の絶望を食べている。君が野の草に触れるとき、君は過去の妻の希望を食べている。君が野の花をちぎろうとするとき、君は私と妻との出会いを食べている。私たちと散歩する君は、私たちの記憶を食べつくそうとしている。


自由詩 食べていく Copyright 葉leaf 2022-10-10 06:18:36
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