鴨居玲の絵画から2
紀ノ川つかさ

  風船

見上げる
あれは月か風船か
オリーブ色に染まった空に
浮かんている丸いあれは何か
風船ならば風に乗って
旅をしている最中だろう
月ならばこの星を見下ろし
憂いている最中だろう
まあ何であってもいいではないか
俺はとにかくまあ
見上げて生きていくのだ
今さらうつむくのはごめんだよ


  教会と石

私は知ったのだ
教会は大地から生えてくるものだと
どうりでここでは誰もの心に
神様がおられるわけだ
教会はそして成長していく
人々の神様への思いを吸い
育っていくのだ
高くそして荘厳に
そして皆の心を掴み切ると
それは大地から浮き上がり
天国の近くまで昇って
硬い硬い岩へと変貌するのだ
それは空を覆うほど成長していて
あれが落ちてきたら
ひとたまりもないね
どうりでここでは誰もが
神様を畏れるわけだ

  パレット

やがて私はこの山の中で眠るだろう
色とりどりであり
息苦しく積層されており
それは私が命の限り絞り出したものだ
私を囲むそれらの山は
日に日に私を消してゆくのだ
私は色を失いそして
背中に背負った人生をも失う
もう私は細い線だけ
輪郭線だけがかろうじてある
さてゆこうか空へ
きっと軽々と
舞い上がっていける

  夢候よ

俺の首根っこをつかんで
宙に浮かせるのは誰だ?
俺は猫じゃない
死神殿は俺を猫だと思っているらしい
かわいらしく生きたつもりは
ないんだがね
まあしかし死神殿から見れば
俺がどんなに苦しく悶えた一生を
過ごしたとしても
運命にじゃれつく子猫のようで
笑って見ていられたんだろう
もう行く時間かね
夢から覚める時間かね

「鴨居玲展 人間とは何か?(中村屋サロン美術館)」より



自由詩 鴨居玲の絵画から2 Copyright 紀ノ川つかさ 2022-10-06 22:10:49
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