EN DLESS SU M MER
本木はじめ
乱反射している飛沫に映るきみ刹那に過ぎ行く夏のはじまり
六月を雨の季節とたとえれば花嫁たちのヴェールは時雨
水の中の八月だから転校すきみの街までクロールでゆく
ひたいから流れる汗に目を閉じる闇の数だけあるのか夢よ
またしても入道雲の不安定 肺から肺へと移る夏呼吸
みぎひだり交互に腕をうごかして世界を沈む泳法で浮く
懐かしき森の空気に目を閉じて舐め合う甘き夏の傷跡
降り注ぐ花嫁たちの花束の雨に見とれる少年の夏
いくつもの風をくぐってきみの待つ夏のバス停思い出となる
目が覚めて滴り落ちる夢の跡プールサイドに夏の抜け殻
深海であなたとふやけつつ今日も空に向かって釣り針なげる
代わりならいくらでもいる夏の夜 赤いスカート燃やして遊ぶ
夕焼けの色を調節せんときみ握り締めたるプラスドライバー
水色のページめくれど数滴の雫こぼれるばかりの海辺
垂直へ降りてゆこうよどこまでも水深二千五メートルの夏
青空になくしたものを探してる羽根をなくした非行少年
空と海ふたつの青に抱かれつつ脱皮の果ての夏色少女
夏沼のほとりにふたり腰掛けて汗ばみながらどろどろしよう
ベルトコンベアーに乗ってぼくたちの部品は夏へと流されてゆく
逆上がりしていたぼくらを眠らせて違う遊びに耽る夏の日
とうめいな水に瞳を沈めつつ今は夏だと思い込む夏
彼岸花みぎもひだりもわからずに少年少女が駆けゆく雨中
亜熱帯植物園内駆けてゆく子らの一秒、二秒、を妬む
石灯籠はさんでふたり見つめ合う少年少女の石像に雨
中心に向かって螺旋に落ちてゆく蚊取り線香色のあの夏
縁側にふたりの草履朽ち果てていずれなるのか山の一部と
骨組みの隙間を埋める青空や夕焼け模様の団扇は無風
終わりなき夏に迷子になるぼくら置き手紙だけ秋色のなか