薄明の中で(十一)
おぼろん

「誘拐? それはまた厄介な事をお考えになられましたね……」
「いや、厄介でもあるまい。事が終われば、世界には再び平穏が訪れる」
「あなた様が真摯であることは、誰よりもわたしが存じております。
 しかし、それは策謀や陰謀の類ではありませんか? クールラントの秩序を保つには……」

「分かっている。人を殺せば、その怨念が我が身にふりかかる。
 誘拐にしても、同じことだ。己の利益だけを、追い求めているのだからな」
「ですからこそ、あなた様は慎重になってください、クーラス殿」
フランキスは、「誘拐」という言葉にいささか動揺していた。

「フランキス。お前は、エイソスにこう伝えてほしい。すなわち、
 『今、喫緊の課題によって、エインスベルを殺さなければならない』と。
 新しい伴侶を得た今となっては、エイソスも我らの言葉に耳を傾けるであろう」

フランキスは咳き込んだ。「クーラス様。戦争は一つの手段ですが、
 あなたは策謀によって、世界の和を求めようとしていらっしゃるのですか?
 この身は、クールラントの聖騎士。命令とあらば、どんな命令にも従いましょう」


自由詩 薄明の中で(十一) Copyright おぼろん 2022-09-02 01:15:03
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クールラントの詩