薄明の中で(六)
朧月夜
「そのイリアスとは何者だ? よもや、ただの下賤の者はあるまいな?」
「イリアスは……アースランテ第三王室の娘です。
いえ、『だった』と言ったほうがよろしいでしょうか。
今では廃嫡され、庶民となった、コウロウ・ノームの娘なのです」
「お前はなぜそんなことを知っている? フフリナ?」
「イリアスの母親は、このクールラントの出自です。
わたしとその者、ハーゼル・ナディとは、貴族院での同期でした」
「女も政治をする時代になったということか……」クーラスは幾分うつむき加減で言う。
「政治もまた、殿方の役割でございます。わたしはただ、あなたの身が心配なのです」
「わたしの命は、国の命だ。わたしがあの世へと行った時、この国の『今』は瓦解する。
しかし、今がその時だろうか。お前の提案は心に留めておこう、フフリナ」
「あなたの懐の深さに感謝いたします。ですが、肝心なことは……」
「そうだ。二人よりも、まずはエインスベルを排除することだ。あの女の死刑は四日後。
心配ない、万事はうまくいっている」そう、クーラスは自分の心をなだめるように答えた。
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クールラントの詩