みんみん蝉が鳴いている
ひだかたけし
みんみん蝉が鳴いている
曇天空に、ただ一匹
細かい雨が降っている
みんみん蝉は鳴き続ける
それは私の心に木霊する
抑え難い生命の高まりが
溢れ続ける生への執着が
私の魂を掻き立てる
生命は生み出され
生命は破壊され
宇宙は貪欲に渦を巻き爆発する
細かい雨が降るなかを
細かい雨が降るなかを
私は家路を探している
かつては在った
懐かしい魂の家路を
澄んだ泉の深い底に
発光するカタマリを観るように
まわりの家々に灯りがともる頃
私は白い小部屋で耳を澄ます
ひとり静かに魂のヒビキに
病魔に冒された肉を背負い
その時にも
あのみんみん蝉は鳴くだろうか
透明な雨が降るなかを
誰一人にも気付かれることなく