球体の幽霊
ただのみきや

二人の会話も水没して遺跡へ還る
時の流れは表層にすぎず
ましてや真っ暗闇
マッチ一本擦って消えるまでの
意識といのちの混同なんて

またすぐ誰かに発見されて
再定義される
そうやって繰り返されて来た
水面に映る顔ばかりが新しく
血の文字だってすぐに水にとけて

よい名付けだけが残る
それは名であって本体ではない
だれも所有できない
みんなただ戯れにダンスに誘うだけ
真剣なのだと尾ひれ背びれを翻して





雨の弾幕
地は白く血飛沫をあげて
樹木は嘔吐する

隙間もなく唇は塞がれて
沈黙の連弾に
発芽する心臓がある

消しゴムで擦った夜の隙間に
鎌首をもたげる呪力
目も口も塞がれて縛られたことば

窓の外からこちらを伺う
神話をもたない愉快犯
夏をまとったなにかこそ





蝉が鳴いている
夢を見ているのだ
形象をまとわない
等身大の本能だ
意味を欲しがるのは人だけ
無心で削る
いのちが鳴っている



              《2022年8月14日》










自由詩 球体の幽霊 Copyright ただのみきや 2022-08-14 14:33:00
notebook Home 戻る  過去 未来