猛暑 UからYへ
うめバア

窓の外は夏

見つからないのだそうだ
あの日、Aの身体を貫いた
一発の銃弾が、どうしても

Aの体の中にもなかったのそうだ

本当に、隅々まで、探したの?
Aの体の中に入って
奥の奥の、見知らぬ通路も、埋もれた記憶の山も
ちゃんとかき分けて見たの?
もしかして
机に積まれた書類の中から、どさくさ紛れに
アレに関する事実が出てきたりはしなかった?

Yを極刑にするなとの署名と
それに憤る声

生い立ちが悲しくたって
理由にはならない
Yこそは組織の1人
やっぱりあれは敵
擁護なんてとんでもない

あの場には、実は別の狙撃犯もいた
ほら、この映像でそれがわかる

今、世間では
蓋をされたままであった
あの団体のことが
次々に明るみに出されている

問題はないと
悪びれもしない顔
それはよくないね
よくしてもらってたけどと
とぼけている顔

それはそれで
コロナが増えて大変だよね
本当にね
それどころじゃないのにね
ああ、忙しい、忙しい
また頑張って、みんなで一つになって
この危機乗り越えようよ

いやいや、
そんな真実を暴くこと自体が
殺人者の思う通り
蓋なんて、ない
最初から、見ない

言えない雰囲気、それとも・・・

老舗出版社の週刊誌には
YがAを撃つ前夜に飲んだ
缶ビールの写真あり
その前日には別のコンビニで110円の野菜ジュースを買って飲み
そのゴミを、コンビニへ捨てに行った事実も書かれている
恐ろしい狙撃犯だって
コンビニで野菜ジュースを買ったり
缶ビールを飲むんだという
当たり前の事実が、また胸を
撃つのではなく、打つ

分け入れば、またわからなくなる
拡散と嫌悪
蝉、蝉、蝉

Yが貫きたかったのは、何なのか

その銃弾ならば
知っているはず
きっと、話してくれるはず
なのに見つからない
銃弾は、行方不明

窓の外は夏

Yは、この夏を生きる
Aは、この夏を生きられなかった
生きることと、死ぬこととは
こんなにも違う
厳然たる事実






自由詩 猛暑 UからYへ Copyright うめバア 2022-07-31 14:42:31
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