無音
凪目

石は喋るのが下手
本当は石じゃないから
石じゃないのだから
本当は喋れるし動けるはずだと考える
本当はなんなのか確かめるために
体を動かそうとして
うまく動けもしないことがわかる

長い時間の中で、たくさん考える
余計なこと、適切じゃないこと、汗だくのがらくた、禁じられた千の言葉、うず高く折り重なったゴミと罵声
石は自分をいじめるのが好き
自分が嫌いだから
自分をいじめる自分が嫌いだから
息を吸って吐くときにできる
吐瀉と汚泥と不潔な垢に塗れた場所を
空転し続ける
そして冷たく硬いひと塊の想念を編む
なぜあなたは適切に振る舞わないの?
なぜあなたは肝心なことを蔑ろにするの?
なぜあなたは成すべきことを成さないの?
なぜあなたは大切なたったひとつのものを壊してしまうの?
それが本性だから

長い時間の中で
沼を掻き分ける
そこで音楽を聞いている
脆くて、鋭くて、深くて、長くて、悲しくて美しい音楽
たったひとつの音楽
何度も泣いて
何度も笑う
何度も感謝して
何度も大好きになる
だけど一人で居すぎると
一人で友だちを作ってしまう
だから自惚れないようにがんばって
勘違いしないように
思い上がらないように
穢さないように
とがめようとして
それが石の体を編む手なのだとわかる

石は石じゃない
そのへんでもうくたばってる
最初から割れてる
割れてるだけの
からっぽのなにか
本当に石だったらよかった
でも石じゃないから喋れるよ
ぼくはあなたの歌が大好き
めちゃくちゃにしてごめん
ぼくはあなたが大好き
いっぱいありがとう
聞き分けられるようにがんばるよ


自由詩 無音 Copyright 凪目 2022-06-15 01:51:12
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