一歳
葉leaf

君は一つの円環を閉じた。満足と倦怠と安らかな眠りとともに、小さな心臓の鼓動の頂をたくさん残して。その一つの円環の中で、君はさまざまに人間だった。常に大地と一体であるがゆえに大地を知らない人間、大地と空のはざまでの息継ぎを覚えた人間、空に向かって声を投擲する人間。君はそのねじれた円環を織りなおすように、今ここに一歳の誕生日を迎えている。

君はこれから感じることはできても形のわからないものにたくさん出会っていく。それらは一見明確に形を持っていてもその本当の形は決してわからない。君の視覚はどんどん研ぎ澄まされていくが、それと比例するように感じたものを貪欲に感じつくしていけ。この不定形な世界に不定形に対峙していくということは君の直観と情熱と愛情を鍛えてくれるだろう。

君がここまで育つのに我々の介護労働が大量に投入されている。だがこの労働は社会における賃労働とはまったく異なる。契約は書面によるものでなく単に君が生まれたことからおのずと交わされた。対価は賃金ではなく君がそこにあり続けるということだ。あるいはそもそも労働ですらないのかもしれない。これは我々の衝動、君への愛に基づいて突き動かされた単なるトライアンドエラーだ。

君には未来しか与えられていない。君は現在を生きながら常に未来に手を浸している。未来に濡れた手でなんでも聖域に触れていけばいい。君の眼は決して曇ることがなく、常に明日の太陽を見るだろう。明日の太陽の光の下で世界の秘密を逃すことなく捕えていけばいい。君はもう一歳だ。歩き始め、話し始め、考え始め、そしてより深く感じ始める。君の未来に芽吹く種子が君の中では無限の祈りをささげている。


自由詩 一歳 Copyright 葉leaf 2022-06-06 05:21:41
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