雨、ショッピングセンター、そして
うめバア

ショピングセンターにいた
福島から来た君は
18時24分の特急で帰るよと
バスの出発時間を心配していた

花屋の紫陽花の
青を束にして、素敵な憂鬱を飾りたい
ゲーム機が置いてあるのは3階だ
製菓店のそばのカフェで
あの人は、誰と約束したの

いないはずの人に会える
ショッピングセンターの
木製の床は軋んで
天井が耐えられるかも心配だ
でも、もう少しここにいよう
この雨だし、それに
暖かく、懐かしい音楽

友達の後ろ姿を見かけて
借りっぱなしの
カセットテープのことを謝ろうと声を出しかけて
怒らせて口を聞いてもらえなくなったことを思い出し
忘れていたぎこちなさを、また味わう

誰かが誰かの大切な人を待ち
ほっとした笑顔で連れ立ってゆく
やっとだね、ずいぶんだね
そろそろここを、出なければ

定刻
バスは出発

隣同士に座れた幸運にはしゃぎ過ぎ
時間を気にして浮かない顔をする君の気持ちを
うっかり軽んじてしまったかもしれない
雨はいっこうに止む気配もない
スピードを上げ、しぶきを立てるバスが
あの橋を渡るころ見たのは濁流

もう少し一緒にいようよと
高速道路に入ったら言うつもりだった


自由詩 雨、ショッピングセンター、そして Copyright うめバア 2022-06-03 22:56:11
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