毒 という
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深呼吸して目眩につつまれ
手近な柵にしがみつく
両肺を染む芳しい毒素
むらさき色に染めあげた
絶え間ない恍惚にいざなう、十年ぶりの/帰郷、敗散/執着、
慨嘆/それら懐しいひとときの必要にせまられ/掌にするまで
の一瞬は/意外にもかろやかな気分であり/視界が回復するに
つれ/くちびるに貼りつく紙巻の/なめらかな棘におかされた
/肉襞にしのびこむ薄笑/はじまりの手続は/言わずと知れた
好奇心/御使の体で始めたセブンスター/ウヰスキーにバニラ
エッセンスを練り込み/希望の蝋を溶かし/絶望にあかりが灯
る/肉体の苦痛に、違う外からの苦痛が/もたらすその場限り
の快楽/などではないただの吐瀉物と芳香/親による鋭い折檻
で/傾けない裸木/取壊されてゆくビル/串を埋めこまれる鮎
の口/それら直立するものたちの/気持ちもすこしは理解して
きた/成長線から手切られ/歌を唄うには障害だから/その小
銭を積み重ねたら/一晩のジャズが聴こえてくるなら/心で幾
つもの記憶を改変することが/どれほど容易いものだろうか、

/自己実験には手頃な癖のひとつにすぎない/女とたばこと、
どちらが/大切? そんな頓珍漢は要らない/風がかがやく度
に/翼が影をかわかすところ/人のいのちの積み嵩を焚きあげ
る/どこか切なく/おかしみを纏う/背中をまるめ屋根の端に
陣を/かまえなくてはならない後ろ姿を/いちいち探さなくて
もいい
何か物足りないから/どこか不安定だから/いいかげん、飽き
たから/異臭を発する交接にどうして狎れたか/くだらない戯
れ言に/どうして虚無を絡めてしまうか/訳のわからないもの
が好きだから/花屋の無言につつまれてあるうちに/いつしか
要らなくなっていた
歌声を択んだ
小銭を掴んだ
それで海のむこうの小鳥を愛でる
禁を破る退屈があって

こうして吹きすさぶ北風につつまれたわたしは
ひとつの燃えさかる恒星に降り立つ
それでいてこごえる目をつぶる
家を失い考えることばも見つけられない
ひとりの女のくちびるに太陽がふれた
あしたはどこにも見えてこなくとも



自由詩 毒 という Copyright soft_machine 2022-04-29 20:28:09
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