夏の終わりの湘南、営業マン
番田
昔営業マンだった頃、僕は家に帰ってよく寝ていた。車の中ではなく、ベッドの上のほうが疲れがよく取れたものだった。実家のベッドの上に寝転んでいた心地よかったあのひとときを思い出す。僕は外が暗くなってくると、頃合いを見計らって営業所に帰っていた。実家から車を出してから、そばの交差点で信号待ちをしていたときの憂鬱な気分を時々思い出させられた、あの車には今どんな人が乗っているのだろう、真っ白なバンで、家に帰る途中で自損事故を起こして角が少しだけへこんでいた。シンガポールの路地を案内人の中国人の男性と歩いていたのはいつだったか、中華街で宗教施設を見学したあとで、市内のあちこちを歩いていた。エビなどを道の途中で食べながら。遠い昔のことでも昨日のことのように僕はよく覚えていたのだ。地震があった日は、配送の車の後ろの席に載せてもらっていたのだ。子供の頃の誕生日の日は、誰かに外に置いていた自転車を倒されていたのだ。海は青くて、静かだった。デッキの上からこちらを見ていた男が一人いた。かき氷の垂れ幕の揺れ、食べるには変わり始めていた季節、肌寒かった風。