エメマンと川
番田 

時々川に出かけたりもする。休日は、することは何もない街だった。護岸ブロックに腰掛けて、遠くを見ていた。そして、向こう岸は、埼玉だった。そこにあまり良い思い出は何も浮かぶことはなかったが、そばにあった自動販売機で買ってきたエメラルドマウンテンコーヒーに口をつけると、そこから、思いがけず、新鮮な感覚が頭の中には広がった。スマホを取り出してニュースのサイトにアクセスする。でも、特にこれといった記事はなかった。新聞を広げてみたところでも、同じような結果が得られるだけなのだろう。社説を読むことが大事だと言われたことがあるが、それを、まだ、一度として読んだことはない。自分がどうしたいのかということばかりを若い頃は考えていた気がするけれど、そのことはもう、よく覚えていなかったし、そこにはただ、明らかな事実だけが残されているだけだった。


エメマンを飲み干すと、僕は立ち上がり、歩き出した。僕の失業していた頃の、この街のはっきりとした思い出が眼の前に現れてきたのを感じながら、震災の前はまだかかっていた小さな橋を見ていた。そして、菜の花畑のように咲き乱れている菜の花の丘を見ながら、街に歩き出していた。もう、昔のことは忘れてしまったのだと。



散文(批評随筆小説等) エメマンと川 Copyright 番田  2022-04-09 01:28:30
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