父とバレンタイン
しょだまさし

今日は2月14日。夫と息子家族と共に父のいる病室に顔を出した。厳格だった父の面影はなく、ひと回り小さくなった寝たきりの老人が眠っている。「お父さん、ひ孫がチョコを持って来てくれたよ〜」と耳元で囁くと薄っすらと目を開いた気がした。先に逝った母を送ると父は後を追う様に伏せる日が増えて今に至った。思えば父の厳しさを嘆くことは思春期だけでなく嫁いだ後も何度もあった。夫の身勝手な転職に憤り実家に帰った時も、息子の反抗期にテメェ呼ばわりされて実家の母に泣きすがった時にも父は私を突き放した。そんな父が涙する姿を娘の私に見せたのは母を看取った時が二度目だった。私は結婚を相談も無く決め、事後報告を聞いた父は何も言わなかった。父らしいなと呆れた私はその後の披露宴の席で母よりも大きく泣く、初めて見る父の涙の意味を知った。何度も訪れた一家離散の危機を乗り越えられたのもその父の涙を見て宿った覚悟のお陰なのだ。そして今、病室で息子家族のバレンタインのプレゼントに隠れる様に『貴方の元に生まれ育ち幸せです』と書いたメッセージカードをこっそり置いた。「ついでに貴方(夫)、(息子の)まさし、はい!貴方たちにもこれ、バレンタイ〜ン♪」「母さんありがと…ってカントリーマァム1枚か〜い(笑)」


自由詩 父とバレンタイン Copyright しょだまさし 2022-02-11 20:34:46
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