異常気象
岡部淳太郎

世界は正常で
人間は生まれた時から既に正しいと
信じる脳天気な操り人形たち
彼等のはきはきした口調
輝く瞳を尻目に
いま空高く
首が飛ぶ
もう数世紀も前に胴体から切り離されて
わが骸をこの眼におさめん
という積年の決意をもって
首は飛びつづける
うちの子はとても明るい子で
彼はどこそこ大学を優秀な成績で卒業されましてね
そんなたわごとどもを尻目に
いま空高いところから
蛙が降ってくる
げろげろげろげろろろろろろ
嘔吐の速度で
すべての物理的法則を無視して
蛙は地上に降り注ぐ
ついでに魚も降ってくる
呼吸困難に無言で口をぱくつかせ
魚の目を患う親父の上にも
白魚の指の姉ちゃんの上にも
魚は均等に降り注ぐ
平野部は紅蓮の炎で焼かれるでしょう
山間部には大量の隕石の襲来
都市部には円盤群が
農村部には幽霊たちが
これは一種の集合的無意識の成せるわざでしょう
まあせいぜい暖かくして眠ることですな
訳知り顔の
心理学者や科学者たちの
そんなざれごとを聴いて
何となく安心したような気になっている無邪気な人々
そんな奴等すべてを湿地の国に突き落とす
そのために憎悪は存在する
はじき飛ばされた人々は何故
これまで悲しむだけで
一度も憎悪について語ってこなかったのか
げろげろげろげろろろろろろ
蛙は降り注ぎ
首は高速で飛び回る
嘔吐に堪えてきた者が
もっと沢山いてもいいはずだ
いまこそ世界は
積年の憎悪で満たされる
この妖気は明日いっぱいつづくでしょう
明日とは
それは永遠に訪れない日のことである
世界は無限につづく今日で塗りつぶされている
だからこの妖気は
いつ果てるともなくつづくのだ
開いてしまった扉はもう閉まらない
見よ
蛙は降り注ぎ
首は高速で飛び回る
げろげろげろげろろろろろろ
大いなる嘔吐は
いつ果てるともなくつづく
いま空高く
憎悪が口を開けて
笑う



連作「夜、幽霊がすべっていった……」


自由詩 異常気象 Copyright 岡部淳太郎 2005-04-30 01:05:01
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夜、幽霊がすべっていった……
四文字熟語