投票の朝
末下りょう


石油になっていく鳩の群れをみていた


盗み見られることで失われるものなどなに一つなく

ウォールストリートジャーナルと朝日の波間で
水鉄砲を撃ちあう月曜の子供たちが

迎えの車を待つあいだに 風が中東の笛を運んでくる 


毎日のように ほかの男に変装した男を演じている男との約束はいかに破られるべきか


ニューヨークから来たヘブルの旅人がくれたコーヒーの泡の 匂い立つ ブラックウォーター  アカデミのマグカップ
夕方には切ろうと思っていた台所の芥藍菜と
ジョーカーの抜けたトランプのカード
使い捨てられた新しさがハイライターの自由を名乗っていく猥雑さ

ごく少数が多数のように振る舞う絵柄も今日にとっての狂気にはなりえない

(カットと吹き替え、フリップと紙芝居のモーニングショー
認知的不協和音もなく)


窓から見える
英語を日本語に翻訳した条文をドイツ語で読もうとするアカデミックな部落の
残り火


ぼくのもとに届いた叔父からの手紙に雨が一滴 染みて 一票が生まれ
 投票箱を聖杯が濡らす


始まりからすべての記念写真は遺影になり すべての置き手紙は遺書になるところ
だからかグレーから出る投票の朝
はぐれた

子供の泣き声のように あちらこちらで猫がないている




自由詩 投票の朝 Copyright 末下りょう 2022-01-18 17:23:11
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