14
末下りょう

(この家はとても寒いね
大きな口を開けて
ぼくたちを飲み込んだこの家はとても

あの子は帰ってきてからずっと泣きっぱなしだけど
きみが忙しいってのもわかってる
指をせわしなく動かしては眼をキョロキョロさせてるから

ぼくの電話にはいつも返事はくれなかったけど
ほんとうは少し傷ついてたんだ
すっかりほっとかれることにまだうまく馴れてなかったから

この家はとても寒いよ
毒を飲むようにガラスを食べるみたいにさ

ぼくはもうなにも食べることができなくなって
眠ることも夢見ることもなくなったよ
光がすごくいやになってしまって
いまは海がとても怖いんだ

毒を飲むようにガラスを食べるみたいにさ
この家はとても寒いね
ねえそう思わない?

ぼくたちは眼に十字架を持ってる
あの壁のうえをまた歩きたいよ
ぼくたちは眼に十字架を持ってる
あの家具のなかをまた歩きたいよ
ぼくたちの眼の十字架はそれなりに豊かで、貧しくて、それなりに最低だから
ぼくたちは眼に十字架を持ってしまったから
あの家具のなかをまた一緒に歩きたいよ *)



分子生物学と助産術から生まれたアフリカ英文学を愛してた

その声色も  ガムの噛み方も ちりちりの髪の毛も  リテラシも メロディも  放埒も 神経症も  花粉症も  肌の色も 瞳の色も  イントネーションも 皮肉も  すべて  わたしは ぼくは愛してた


あの頃ぼくたちは わたしたちの決定的な何かが変わる気がしてた

朝焼ける町の堤防を歩いて明るみだす洞窟の水溜まりにジャンプするみたいに走り出して
わたしたちには ぼくたちにも救いがあるんじゃないかって この先の景色にまだ許されることもあるんじゃないかって

東の終着駅から西の終着駅まで途切れることなく町を分断する壁に原色の線を走らせるきみと出会い
鼻の高さから日付変更線が滲み出すきみを信じて愛することを知ったように思えた
抑えきれないほど触れたくてうまく理解できずに泣いてたら何かが変わる気がしてたぼくは わたしはその夜13になった

ケリ、きみの住む町の光を列車から眺めて知ったよ はじめからあの景色はきみだったんだって

もしほんとのなにかをみつけたならそのあとにまだなにを語れるんだろう
すべて見回してみてもなお確信のなかで心から愛してること以外に


あれからきみは どんなすばらしい人たちと出会って どんなすばらしい恋をしたの ?
わたしは ぼくは きみと出会えて幸せだったし 今も 大切に 思ってる
今 この瞬間  きみが幸せなら ぼくたちは わたしたちは 心から幸せだ

ケリ、あのとききみは 14だった 



自由詩 14 Copyright 末下りょう 2022-01-10 10:23:47
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