メモ(小包)
はるな



茶色い紙の小包は手に乗るほどの大きさでここちよく重たく、白い紐で縛られていた。
僕は鋏をつかってそのきつい十字を解く。そして、

ガラスで出来た天使(羽が欠けている)、チョコレート一粒、ハーブティーのティーバッグ、なにかきらきらした紐、ひと組のピアス、プリクラ、石、2センチほどの瓶に詰められた透明な液体、同じくらいの小瓶に入った桜貝、ワインのコルク、焼き菓子(粉々に砕けている)、そして無数のひかる赤いビーズ、

開けたとたんにビーズがこぼれ出して、あ、あ、と言いながらテーブルの上に置いた茶色い紙の裏側になにか書かれている、細々したそれらをひとつずつ取り出し、ビーズたちを手で避けながら読めるのは、10年前の日付と愛という字で、筆圧の濃いその字を僕は知っている。
疑り深く、さらに疲弊していた僕にできたかつての恋人はよく喋るひとで、地に足のついたロマンチストだった。よく歩き、よく進み、どこまでも夢を語る。ささいなことで大きな喧嘩をした、10年も経ったとは思わなかったが、「言葉で気持ちを包めるものかよ」と言ったことを思い出す、ワインを開けた夜だった(硬くかわいたコルク!)、君は赤いビーズのネックレスをしていた、今の今まで忘れていた、簡単に思い出す。君は、それでも愛とか言うわ、とつぶやいて、泣いたか笑ったか。それともそのどちらもだったか、冬で海に行ったんだ、よく歩く君と、すぐに疲れる僕、はいったファミレスの店員の態度があんまりぞんざいで楽しかった。それでも愛とか、と言った君が包んだ、白い十字を、どうして丁寧にほどかず切ってしまっただろう。どうしていつも自分だけが傷ついていると思ってしまうだろう。こぼれた赤いビーズが道のようになって、帰ってきた君がきっと呆れる。


散文(批評随筆小説等) メモ(小包) Copyright はるな 2022-01-06 03:36:11
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