タオル
坂本瞳子

寒空にさらされたタオルが一枚

人の気配がしないベランダに
タオルが一枚だけ干されている
顔や手を拭くサイズのタオルは
新しくも古くも見えない
ただの白色のタオル
なぜほかの衣類などはまったくなく
タオルが一枚だけ干されているのか
あのタオルはいつからあそこにああして
干されているのだろうか
今朝もあそこに干されていただろうか
そんなこと
自分も含めて誰の目にも留まらなかったのだろうか
あの家の主はやがて帰って来て
ちゃんとあのタオルを取り込んであげるのだろうか
そしてていねいに折り畳んで
適切な場所にほかのタオルと一緒に格納してあげるのだろうか
そしてまた取り出して顔や手や身体を拭いたりして
洗濯して干してあげるのだろう
次回はほかの衣類やシーツや
ほかのタオルと一緒に洗って干してあげるだろうか
タオルの主はあれを大事にしているだろうか
こんなことを気にしてもなんにもならないのは分かっている
けれど気になってしまうんだ
あのタオルの行く末が
こうして出会ってしまったから


自由詩 タオル Copyright 坂本瞳子 2022-01-04 15:51:21
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