火傷の腕で
平瀬たかのり

 慌ただしくも慌ただしく
 やることが多すぎると
 なにから手をつけてよいやら
 まったくわからなくなります
 四層フライヤーの前の
 ボクってば

 とりあえず竜田揚げ
 当店名物〈若鶏レモンダレづけ〉用の
 片栗粉まぶした鶏もも肉
 グワシっと右手で掴んで
 バシャバシャン
 あちっ、あちちっ
 だからゆっくり落とせよ
 百八十度の油なんだよ
 うるせえ悠長にしてられるか
 売り場全然埋まってねえじゃねえかよ
 バシャバシャン
 あちっ、あちちっ

 遺るのは火傷の痕
 といってもたいしたものではないが
 ぽつぽつと赤く
 シナリオを書いているボクの目に
 
 けれども、しかし
 この腕で書いていくんだ
 家業は継げなかった
 商売にも失敗した
 来し方ゆえの
 火傷痕遺るこの腕で
 
 人間の悔しさと、喜びを
 誰よりも


自由詩 火傷の腕で Copyright 平瀬たかのり 2021-12-29 19:51:33
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