雪原を駆ける海馬
ただのみきや
冬の太陽が弾丸みたいにサイドミラーではじけた
盲人の手を引いて地吹雪を渡る声
活字から落ちて 雪と見紛う
針葉樹を穿つ弱々しい木洩れ日たち
瞬間から瞬間へ
印象から印象へ
生の破線は裂かれてゆく
夢は補完する
現に含みを持たせながら
時間は自己を映す鏡
鏡像こそが記憶である
始まりも終わりも在ってなく
出来事と自分の足跡を辿りながら
帰結のための歪んだ円環と
重心の影を追う傾倒の果て
ぼんやりと球形を成す
記憶は
閉ざされた内的対流
夢想する無精卵
過ぎ去った身じろぎを覆う繭
そこから一本の
絹のほつれを引っ張るように
寒さが耳から拭えない
宝石商の女の黒い刃物のようなポージング
わたしに一つの夜の捻じれを縫い付けて
フルートみたいな針が咬んだ
おまえは激しく鳴らされる鐘
音の中で音を喪失するように
ひとつの体温の空白を抱いている
おまえは水底の石
太陽の化石を秘めたまま黙し
辺りを揺らさないようにそして
微かな揺らぎすら見逃さないように
雪をまとった大地その肢体の眩さに蒼い陰が憩う
針葉樹をくぐるヒヨドリの声が冷気を裂いた
ああ忘却の白い海 構築と瓦解の混沌から
ウェヌスのような記号の肢体を引き出し得るか
まだらな眼差しの果て――茫漠
《2021年12月26日》