堕天
福岡朔

翼をもぎました
背中がかるくなりました
しとどに流れる血 真珠色の血あふれて
ふたすじの傷口を 白南風しらはえがなでて過ぎゆきました
すずしい背中
六月のこと

あなたの手をとりました
しとねには茨がしきつめてありました
すこし 痛いけれど
いいえ 平気です
だって 黒い茨花ばら つぎつぎに咲くのですから

夢のようです あなたに抱かれること
あなたの執着を得たこと
あなたに飼われること

夢のようです 涙があふれます
あなたの貌がにじんで見えない
愛にめしいた琥珀の瞳

ばらの棘で両の眼を刺して
あなたの棘で麻酔をうけて
翼はもいで棄てたから もう わたしはただのおんな
寝台の上 仰向けになり あなたの重みを受けとめる ために
背の翼
邪魔でした 翼
それが堕天の理由のすべてです。



自由詩 堕天 Copyright 福岡朔 2021-11-15 22:50:01
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