おくらの花
そらの珊瑚
十月になっても初夏みたいな日が続き
小さな畑でおくらの収穫をする
母は
穏やかでなんのわずらいもない日よりだと言う
この小さく可憐で柔らかなおくらの花が
せめて実になるまでそれが続きますようにと
小さく祈る
花の黄色は実の緑の中にあり、
いつかの虹は空の中にある
見えなくなっても
そうやって大切な人は誰かの中にいる
祈っても叶わないことはたくさんあって
父は亡くなり
母は
一年で一番良い季節を選んで父は逝ったのだと言う
昨晩父が夢に出てきた
なんらかの事情で、のちに私の夫になる男が家に泊まることになり
「結婚前にそんなことは認められない」と怒っていた変な夢
起きたてに笑ってしまう
夢の中でも頑固だったので
元気だった頃の父が
早朝、おくらの花を収穫してきて
料亭で出る高級食材だぞと見せたことがあった
私はあれを食べただろうか
おそらく仕事に遅れまいと支度に忙しく
はなからそんなものに興味もなく食べなかっただろう
実になる前の命を
父はどんな思いでとってきたのだろう
私の娘の誕生日と同じ日に父は逝った
おまけに私の祖母の命日も同じ日だ
私の大切な人はなぜか十月が好きなようだ
今もどこかで
命は生まれ
命はなくなり
奇跡のような日常に
私は確かにここにいるよ