北方派五分楽団2
板谷みきょう

地域で暮らす障害者と住民達の
出会いと交流の場として
「ふれあいコンサート」を
開催したいので是非とも
札幌で活動している「北方派五分楽団」にも
出演して欲しいのです

暮らしの中で
障害当事者の不便さや
どういうことを望んでいるのか
意見も聞きたいですし
実際
見かけること位はあっても
どんなことをして
何を考えて過ごしてるかとか
殆どの市民は
判らないと思うんです

交流する場として「ふれあい」も
長年活動を続けています

いかがでしょうか?

そんな地方演奏の依頼があって
幾つかの確認の後に
主催者の熱意にも協力したくなり
楽団員達と話し合い
出演することを決めたのだ

折角だから大型バスをレンタルし
支援者の車も使って大勢で乗り込もう

募集してみたら出演者の他にも
応援者を含めると五十数名となった

十名で演奏して
残りの四十名は後ろで
幟を持ったりして
盛り上げて貰おう

そう決まって会場入りしてみると
会場に居るのは
障害当事者と福祉関係者ばかりで
一般市民の姿が見当たらない

でもきっと
開演時には市民会館には
沢山の地域住民が来るに違いない
そう思って
受付のもぎり担当責任者に話し掛ける

「チケット販売は障害者施設だけですから
地域の人たちは殆ど来ませんよ。」

あれれれ・・・

話が違うなぁ。

そう思いながら控室へ戻り
兎に角
今日は盛り上げて行こうって話をして
最後の通し稽古をした

出演時間になり
舞台裏に集合して出演を待ってると
舞台責任者が

「五分楽団さんって何名の出演でしたか?」

『十名ですが。』

「じゃあ。此処の他の人たちは?」

『演奏者の後ろで盛り上げる盛上げ隊です。』

「盛り上げる人たちは、要りませんから。
聞いてませんし・・・」

『否、演奏は十名ですからマイク不要ですし、
何か問題でもありますか?』

「そう言う事じゃなくて」

『地域の人たちとの「ふれあいコンサート」ですよね。
歌わなくとも舞台に立って参加することで
理解も得られると思ってますが。』

そんな遣り取りのなか主催者が来て

「困るんですよ。「施設解体」なんて
幟まで持って出られると。」

『いやいや。これも意見ですから。
それに持ってるだけですし』

「いや。ですから社会福祉協議会から
助成金も受けてますし、マズいんですよ。」

そんな噛み合わない話をしてる間に
出演時間が来て楽団員だけは
舞台に上り
他四十名の盛り上げ隊は
舞台袖でスタッフの制止を受けていた

客席からは袖幕で見えないけれども
舞台からは舞台に出ようとする障害当事者達を
主催者側スタッフが無理やり
制止している姿が丸見えだった


頭に血がのぼってくるのが分る程の
怒りが込み上げてきたが
演奏を始めない雰囲気に
今度は客席が騒めき始めた

兎に角
楽団員に
「こんにちは。札幌から来た北方派五分楽団です。」と
自己紹介をして貰った

その時
知的障害の自閉症の盛り上げ隊員の一人が
制止を掻い潜り手をひらひらさせたり
パチパチさせたりしながら舞台上に出て来たのだ

僕は彼を指しながら
「実は、彼の他に四十名が舞台袖で
スタッフに出てくるのを止められているんです。
こんな状況が、ここで長年開催し続けてきた
「ふれあいイベントなんですか!?」

そして
「ピープルファーストの歌ー人間だからー」を歌った

後日、主催者側から訴えてやると連絡がきたが
翌年から「ふれあいイベント」は廃止になり
突然登場してきた彼は今年
三十七歳の若さで他界してしまった

※ピープルファーストの歌
https://www.youtube.com/watch?v=BwoxKz3l5GU


自由詩 北方派五分楽団2 Copyright 板谷みきょう 2021-10-29 14:31:44
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