柘植の枝で叩く
竜門勇気
盗んだりしちゃだめだ
奪ったりしちゃだめだ
言葉を使ったり
力を使ったりして
暴力は僕らを馬鹿にする
誰かを偽物にしたり
殴りつけたあいつから
謝罪の言葉を聞いたりしてるうちに
舌が何をしたか忘れるし
右手が何をしたか忘れる
グリスを塗ったコップで
ワインを乾杯できるようになるってことさ
しかも笑顔で
柔らかくなめらかな
すべての言葉と
オウムの群れが飛ぶ下で
柘植の枝で叩く
二度と力が訪れないよう
念入りに
柘植の枝で叩く
暴力が僕らを馬鹿にするんだ
一人ぼっちはいつからだ?
あんまりに慣れすぎて孤独が見えなくなったか?
今はそれが教訓みたいに思えて
痛みが薬みたいに感じてる
でもそんなのって変だ
他人がくれる痛みはなんの役にも立たない
外からじゃ意味ない
固くありふれた
すべての言葉と
責め立てられるその舌を
柘植の枝で叩く
二度と僕の内側で力が生まれないよう
念入りに
柘植の枝で叩く
盗んだり
したよ
他人のものやこと
奪ったり
もした
泣いてたっけあいつ
あんときからずっと今まで
あいつが柘植を育ててくれてたんだ
途方もなく立派な枝が
僕をぶちのめすためだけに育ってた
そしてエンディングだ
まだ葉の残る丸太のような枝が
振り上げられる
葉が揺れる音が聞こえる
壊れたラジオが電源が入ったままほったらかしだ
振り上げたままそれを聞いていた
うなだれる
振り下ろす
念入りに、ちゃんと死ぬまで
ああ、こんなことなら今日こそ少しはラジオのことを考えればよかった
どうしてこの日にこんなことに
昨日まともな気分になっていられれば
今日こんな風になってなかった
”じかんです”
そんなことはどうでもいいんだ
「じかんです」だ?
誰の時間だ?僕に関係あるのか?
関係あったとして僕たちになにか命令できるのか?
でもまあ潮時だ
高らかに鳴らそう
盗んだし奪った
誰にとってもそうみえる
僕もそう思ってる
柘植の枝を振り下ろすんだ
固くて曖昧なものを
誰よりも柔らかく確実に
自分を処刑するときはこうするしかないだろ?
時間です
すべてが時間になる