決着をつけない勝負をしている
ゼッケン

自らを裁く法廷では花火が上がり始める
どどーん
おれは負けまいと声を張り上げる
被告は! ドーン、パ!
自分をいい人間だと思っているド、ドーンパ、
パンパンパン
他人の心臓を移植された人間は人格が変わってしまうことがあるそうだ

人格が悪いほど長生きするんだ、おれの方が先さ
あの老害、死ねばいいのに、死ぬのはおれの方が先さ
だったら、おれの心臓をあいつに移植すればいい人間になる
いい人間になっちまうんだ、おれの心臓を移植すれば

おれは嫌悪感を抱きながら相槌を打つ
先生、そうですね
病床の先生は、くそっと吐き捨てる
恨みつづけて死ぬ人間がいい人間なわけないだろう
三流とは言わない、三流は恨みを忘れる人間だ
他人に同じことをして自分が恨まれる、二流は恨み続ける人間だ
他人に同じことはしないが、自分を苦しませ続ける
先生は二流だ、一流は恨みを許した人間だ、他人も自分も救えるだろう
ドンドンドン
パンパンパン
死にゆく人間をジャッジしたのです、被告は
自らを裁く自分裁判でおれはおれを断罪する
おれは自分をいい人間だと思っている!
口では自分を疑う論をかざすが、おれは心中で他人を裁く
おれは正義を身内に囲っている、嫌悪感は正義ではない、良いものだ
しかし、おれは嫌悪を説明する、その挙句に他人の恨みを蔑んでいる
恥をドーンドーン知れパンパン
おれは仁と義の二重らせんの階段を下り続けている
そしてさらに自分自身を蔑む悦び
有罪! 二重に!
花火は上がらず、法廷は静かに閉じる


自由詩 決着をつけない勝負をしている Copyright ゼッケン 2021-10-03 15:50:51
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