スーパーカブ讃歌
梅昆布茶
人生の走行距離はもう僅かかもしれないが
スーパーカブ程好きな乗り物は無いと思っている
角栄大臣の日本列島改造論で大陸との現実の橋ができていたら
スーパーカブに跨って日本のあるはずもない誇りなどふりはらって
一か月休みを取って北京の天安門広場で民主化のデモに参加したい
適温のなかで適当な知見で物事を判断するしかない自分
看板だけ共産の偽装権力が香港や澳門を覆い尽くし人心を搾取してゆく
民衆の駆動力はスーパーカブの原動機と連動している
単純だけれども優しいメカニズムで燃費良く壊れず勤勉で
いつかの僕に似ているかもしれない
ヨーロッパの中世を支えたロバみたいに
日常の荷役をおおかた肩代わりしてくれる
温厚でいちばん忍耐強い乗り物なんだなこれが
人の手のはいらない耕地は荒れてゆく
自然や野生の支配は確実かつ迅速で
素早くスマートな文明的決済の哀しみと
新宿のアルミ缶を集めるホームレスとの落差を
木偶の坊政権から金権政権へ移ろうとも
スーパーカブは決して疾走(もともとできないのだが)しないで
ろくな舗装もされない路面と対話しながら
主人への愚痴を排気とともにゆっくりと吐き出しながら
言語技術などいらない歌でもうたって
走り続けるのかもしれないのだから