オリンピックとコロナとわたし
ただのみきや

涼を狩る

池の青さ
  屏風と扇子

ボタンを外した
   指は行方知れず

アオダイショウ
   そっと跨いで 


墓地へと続く
   坂の木陰

吸った唇
   死者の溜息

遠雷が見とがめる
   朝顔のうなじ

   




スケッチスクラッチ

白いトタン屋根に光が溜まっていた
梢が覗いている
リズムに乗ってハミング
興味なんかないくせに
意味あり気な否定と肯定の振り付けで

運命は信じないけど
自分の現状を肯定することに余念がない
羽根のように軽やかな頭を持つ人

もしくは絶えず笑ってる
でなければ厚みのない紙の上
どこまでも奥行きを描ける人

比喩ではなく
絶えず揺れ動く世界
わたしもまた覗いている
高慢な王様のように

イルカが跳ねた午後
焼け焦げた網膜に
仏壇みたいな冷蔵庫が倒れて来る
着くずれた浴衣の女がひとり
中空に鳴っていた

わたしの目と彼らの指に
大気はしつこくくすぐられ
こらえ切れずにこぼす鈴
青い青い窒息の高揚感






うつせみ

おまえの思考の絡まりが黄ばんだ狂気のまま調理され
白い皿の上で吐瀉物を装う時そこにカタルシスはない
解き放たれた蝶は一瞬にして燃え上り微かな灰とガス
になるおまえは同じ場所に立っているただ老いが進む
乾くために飲むおまえは楽園の終身刑を言い渡された
魂の独房で蛇に飲まれかけている金糸雀の羽ばたき歌
声の代わりに知恵の実を用いてもはや欲望を情熱とは
呼べなくなった自意識を腐らせながら自らの生をもっ
てなにかを表現しようとひたすら渦の中心へ一つの虚
点へネジ釘のようにギリギリと等価には名付け切れず
展開された言葉の群れが追い囲んだ形のない空白の肌
に触れた心酔の粒だった泡立ちの中で一瞬にして面差
しまでもが消失し氷の裸体を求めグラスの海をさまよ
っている乾くために飲む消耗こそ生の進行形でのみを入
れるのは残すためではなく跡形もなく削り尽くすため
その過程を作品とうそぶくのは死の無謬性に耐え切れない
からか凄まじい太陽の求愛に暗黒を摸索し続けながら
蝕から見つめ返す何者かのためにおまえは上品に狂う
だろう獣にはなれずにむしろ混沌の屍を踏みしめる狩
人の透明な釉薬の微笑みで滅んだ歌の墳墓から冷たく



                   《2021年8月8日》







自由詩 オリンピックとコロナとわたし Copyright ただのみきや 2021-08-08 16:24:46
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