休養
山人

 もう無理はできないな、と最近感じる。年々、暑さが身に沁みて体を痛めつけているのが解る。昔はそうではなかった、というのは誰もいずれは知ることである。私も老いつつあるという事なのだろう。
 三週前から開始された県道除草も、おおかた目途はついた。草丈はもちろん、作業車道の延長もあって、作業効率は悪かったと言えよう。昨年は、まだ梅雨明けもせず、気温も高くなく、わずかながら捗った。今年は梅雨明けも早く、異常な暑さに無理が利かなかった。
 連日の午後からの日照は堪えた。三十五度近い直射日光の下で刈り払い機を振り回す。いったいどれだけの水分が失われたのかと、下着を脱いで搾ってみればアスファルトにはおびただしい汗がびしゃびしゃと落ちていく。汗が出るだけまだマシなのだ。まだ、体は汗を出すことで体温を調整してくれている、という事だ。
 昨日、土曜は県道除草から一旦離れ、少人数での薪づくりの伐採と造材の仕事があった。今の時期のチェーンソー仕事は刈り払い機よりも疲労度が強い。重いチェーンソーを持つだけで体力は消耗され、汗も多く出る。木を伐るという、やや緊張度の高い作業そのものは気を張っているせいかさほど苦にならないが、伐った後の造材の仕事で一気に疲労度が増す。昨日、一昨日と一瞬立ち眩みのような症状に見舞われ、声の枯れと耳の異常も認められた。また、帰ってからのそこらじゅうの軽いこむら返りもあった。あとで調べると、すべて塩分摂取不足のようだったが、作業中は水と共に梅干しも食べ、塩分摂取も欠かさないようにしていた。だが、まだ摂取量が足りなかったのだろうか。 
 我慢できず、日陰で休むのだが、シャツは川から服を着たまま上がったかのようにずぶ濡れ状態だ。休んでいても、手の甲からは汗が噴出し続け、額から地面に汗がぼたぼた落下し続けた。そんな中、アブたちは盛んに美味しい獲物に群がるかのように、私の汗もろとも吸いながら、着衣もろとも頭を押し付け口を皮膚に差し込む。汗と熱疲労でグダグダになっていつつも、その痛みに耐えることはできない。バシッ。背中に手の平で打ってみるが、アブは平然と逃げていく。しかしながらだ。同僚と笑い話の中でよく言い合う事だが、虫はとにかく暑さに強い。アリはもとより、こういったアブや蝶、甲虫類。暑さに強いのではなく、むしろ快適ですらあり、活動しやすい時期なのだろう。蝶など、のんきに手の甲の汗を飲んでいる。そんな、虫たちの営みを眺めながら再び水を飲む頃、次第に体温は下がり、汗も収まってくる。そのタイミングで作業再開となる。
 今日も単独で請け負っている除草作業に行くべきかと軽く悩んだが、体は一方的に拒否していた。止めとけと。
 外ではキリギリスの類と、エゾゼミだろうか、とにかくあまりうるさくない程度に鳴いているのだが、残酷なほど聞きなれた音だったりする。そこに時折ホオジロが凡庸な鳴き声を散らしているのだが、それが痛い。
 今日は、温厚な私の体内都市が育まれているのだろうか。できれば一日くらい汗を流さない日があってもいいだろう。君らもたまには鳴くのをやめたらどうなんだ?


散文(批評随筆小説等) 休養 Copyright 山人 2021-08-01 07:59:47
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