くしゃり
◇レキ

その蝉の抜け殻は取り残された


中身は出ていったとき
羽が開ききらないまま乾き
飛べずに地面に落ちて死んで
腐りかけた頃、蟻に運ばれていった

抜け殻は土にいた頃のあやまちを数えながら
今はただ黙って世間を聞いている

中身も無いしピクリとも動けないけれど

心も空っぽなので
体には乾いた風が快く流れた


抜け殻はよく晴れた昼間
雄の蝉が鳴いたり
雌の蝉が待ったりするのを眺めながら
自分がその一員であるような気分になったり

誰もいない雨の日の夜
湿気で少し柔らかくなって
生きているような気分になったりした


ある日足が一本ポッキリ折れて
抜け殻は地面に落ちて転がって
誰かに踏まれてくしゃりとだけ言った


自由詩 くしゃり Copyright ◇レキ 2021-07-18 22:16:23
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