悲しみのない自由な空
愛心

いつものようにベッドに入り、翌朝目が覚めたら私の背中には羽根が生えていた。

翼というには小さ過ぎて、服を着てしまえばほとんど目立たない。

こんなものでは勿論飛べなくて、動かそうとしてみると、付け根の、肩甲骨の辺りが痒くなった。

爪の先で引っ掻くと、柔らかな羽毛がくすぐった。

小さな頃に夢にまでみた羽根を手に入れたというのに、実際の心持ちはほぼほぼ無に近かった。

いつもと変わらない。

顔を洗い、朝食を食べて歯を磨き、化粧をして、着替えをし、靴を履く。

玄関の鍵を閉めていると、お隣さんが出てきた。

スーツ姿のお兄さん。これもいつもと変わらない。

挨拶を交わし、お互いに会釈すると、その拍子にお兄さんのスラックスからしゅるりとしっぽが飛び出した。

お兄さんが慌ててしまいこむ。

なんでもないですよ、と、愛想笑いをすると、何故か謝られた。

そうだ、なんでもない。

大家さんの頭には角が生えてるし、走る小学生からは蹄が鳴っている。

オバサンたちは超音波で井戸端会議。女子高生が牙を磨いていた。

世界規模のパンデミックが起きて、早50年。

私たちは生きやすいように、動物に進化しただけなんだから。

人間の皮を被った私たちは、今日も日常に溶け込んでいく。











自由詩 悲しみのない自由な空 Copyright 愛心 2021-07-16 00:37:32
notebook Home 戻る  過去 未来