すきま風
蜜
わたしの前から
あなたが立ち去った
その瞬間、
わずかな風が生じる
わずか、だ
わたし自身が感じるか感じないかくらいの
本当に微かな風
しかしその何とも言えない悲壮感
わたしは今 とても可哀想な人間だ
ちょうどその日は
草も揺るがず
空は清々しく澄み渡る
春の心地良い陽気だった
一方、その頃
地球の裏側では
蝶が青草から
ふわり
と飛び立つ
その瞬間、
わずかな風が生じる
そのわずかな風が
はるか海の向こうの気象を左右し
数時間後には蝶も行けない大地に
大嵐を齎すこととなる
本当に微かな風
あなたが立ち去った後
取り残されたわたしの心の中の
ぽっかりと開いた部分に
強い隙間風が吹きぬけた