花桃の木
黒田康之

昔、愛した女の庭には
大きな花桃の木があった。

その木は
春になると
その女の唇のような
濃い
桃色の花を枝いっぱいにつける。

その花びらひとつひとつは
どうしてもその女の爪の形だ
私にとって春は
その女の体温の到来で
陽だまりには
どこか獣じみた
その女の皮脂の匂いがある。


自由詩 花桃の木 Copyright 黒田康之 2021-03-14 03:36:32
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