さて、SF好きと公言しているわりにはそう多読でない事を告白せねばらない。だが、こと「あとがき」にかんしては手元にあるSF小説のほぼ全てに目を通していると断言できる。それから、裏表紙のあらすじもだ。別に褒められた話ではないが、自分の取り柄と言ったらそれぐらいなものなのでこうして書いてみようと思い立った次第。今回は、記憶につよく残った「あとがき」を取り上げてみる。裏表紙のあらすじにも秀逸なものは多いので、是非引用を試みたいのだがそれはまたいずれという事で。何か所かコメントを差しはさんだ部分があるが、個人的な感想なので気にしないでいただきたい。
〇『夜の翼』あとがき〔改題〕ファンタスティック・シルヴァーバーグ 浅倉久志
※文中の「中略。」のみ筆者記す
・・・夜明け前にとつぜん火災が起こって、大邸宅の上半分が灰燼に帰してしまった。さいわい蔵書類は無事だったが、シルヴァーバーグは茫然自失するほどのショックを受けた。中略。仮住まいの中に新しいタイプライターを買いこんで書きはじめたのは、だが、そうした状況からすると意外なほどの、リリカルな美しさにあふれた物語だった。この小説はまもなくギャラクシイ誌に発表されて絶賛を博し、その年度の最優秀中編としてヒューゴー賞を獲得した。もうおわかりだろう、その題名は“Nightwings”・・・
〇『鼠と竜のゲーム』あとがき コードウェイナー・スミス入門 伊藤典夫
※スミスの人柄が偲ばれる手紙を伊藤典夫氏がこうして訳してくれたことには、感謝しかない。スミスの作品を知る者にとって、胸詰まること必至の内容である。
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献辞ヴァージニア州ルイーザ出身の
いまは亡きエリナー・ジャクスンに捧げる
一九一九年二月二十日生、一九六四年十一月三十日没
愛するエリー
きみはわたしの看護のために家に来たのだったね、エリナー。具合をわるくしたわたしが、この本の最後の仕上げにかかっていたときだ。わたしの寝室と隣りあわせになった小さな客用の寝室で、きみは死んだ。わたしのために腕によりをかけた朝食をつくるのだといって、エリナー、きみはその夜家に泊まった。わたしは病気のうえ、あいにくそのときには妻まで入院していたのだ。
エリナー、きみはわたしの家で死んだ。きみはとても眠そうな顔で死んでいった。アメリカのデパートで売っている、小さな”有色人“の人形そっくりに。
エリナー、きみは黒人、そしてわたしは白人と呼ばれてきた。十七年のあいだ、きみはわたしの家にかよい、料理をつくり、掃除をし、アメリカにいるわたしの身のまわりの世話をしてくれた。きみは女、わたしは男。十七年間に、家の中で二人だけになったことは数えきれないが、わたしたちのあいだにぶしつけな仕草やみだらなことばが交わされたことは一度もなかった。わたしは優しく、礼儀正しく、寛大に、思いやりをもってきみに対したし、きみもまた優しく、礼儀正しく、寛大に、思いやりをもってわたしに対してくれた。
生前のきみに決していったことのなかったことばが、わたしの口から出たのは、ブルーの制服姿の警官たちが、きみのなきがらを遺体運搬車に運んでいったときだ。
「愛しているよ、エリナー。どこへ行ってしまうんだ、わたしのかわいい恋人?」
エリナー、きみの居場所は知っている。きみの小さななきがらは棺におさめられ、この世界の裏側、ヴァージニア州のどこかに眠っている。わたしはまたオーストラリアにもどってきた。しかしエリナー、これだけはきみに伝えておきたい。わたしは主人、きみは召使いと呼ばれてはいたが、きみの聡明さと優しさにふれることができたこの十七年の歳月を、わたしは誇りに思うし、決して忘れない。わたしたちがともに信じるよりよい世界で、エナリー、現実のきみとまた会える日を待っている。
コードウェイナー・スミス・・・
〇『スラップ・スティック』あとがき 訳者(浅倉久志)あとがき
ヴォネガットで初めて読んだ本がこれ。若いころは正直よくわからない部分が多かったが、馬齢を重ねるにつれよさが分かってきたと思う。
・・・人から、あなたのカルチャー・ヒーローは、と問われるたびに、わたしは敬虔な感謝をこめて、マーク・トウェイン、ジェイムズ・ジョイスなどの名前をひきあいに出す。しかし、わたしという無教養な男がいちばん深い文化的恩恵をうけた相手の名は、ローレルとハーディ、ストゥープナグルとバッド、バストー・キートン、フレッド・アレン、ジャック・ベニー、チャーリー・チャップリン、エース夫妻、ヘンリー・モーガンなどなど・・・
・・・占星術の魔法は、星ぼしが実際にわれわれの人生を支配するということではなく、生まれてきたあらゆる人間にとつぜん威厳が備わることにあるのです・・・
カート・ヴォネガット
〇『究極のSF 13の解答』の収録作「けむりは永遠に」についてジェイムズ・ティプトリー・ジュニアが自ら語ったあとがきより
編者のマルツバーグとファーマンが本アンソロジーを編む際に投稿者に要求したのは、いくつかのリスト、そのリストとは―⒜その作家がこのテーマの古典と信ずるもの、⒝今回の作品を書く上で最も影響を受けたもの、⒞最低一編の自作-である。注目すべきは、ティプトリーがこのリストを書くにあたって、⒞最低一編の自作を選ばなかったことだ。ちなみに、ティプトリーに与えられたテーマは「ホロコーストの後」。ティプトリーほどの才気溢れる作家でも、SFというものに対しある種の畏敬の念めいたものを抱いていたことがうかがえる。ガードナー・ドゾアがちぎったたしかナプキン(だったかな?)に「ドゾアのちぎった紙ナプキン」と書き込んで喜んでいたという逸話もそれを物語っている。その話をどこかで読んでからというもの、素晴らしい作家ことに抜きんでた作家の条件として、謙虚さというのは不可欠な要素のように思われてならないのである。 ※訳出されている作品以外の原題表記は省いた。
長編
『草の死』ジョン・クリストファー
『破滅への二時間』ピーター・ジョージ(ブライアント)
『黙示録三一七四年』ウォルター・ミラー・jr.
『果てしなき明日』ハント・コリンズ
『大地は永遠に』ジョージ・R・スチュワート
短編
「昔を今になすよしもがな」アルフレッド・べスター創元SF文庫『世界のもうひとつの顔』収録
「男と女」デーモン・ナイト
「World without Children」デーモンナイト
「ヴィンテージ・シーズン」C・L・ムーア
「雷鳴と薔薇」シオドア・スタージョン
「イヴのいないアダム」アルフレッド・べスター
〇『中継ステーション』あとがき 解説 谷口高夫
※単純にシマックのこの作品が好きなので。
・・・そんな背景のもと、主人公以外だれひとり知らないところで、人類にたいへんな問題がふりかかり、物語は結末へ向かってまっしぐらにすすむ。内容的には大宇宙へひろがる結末だが、その舞台もまたステーション近くの田園地帯だった。この結末がやや安易だという説があるのは知っている。だがこれがちがったかたちのものになっていたらこの作品は、シマックを好きなぼくたちの支持を、現在ほどに受けなかっただろう。いいじゃないか、人がなんと言おうと、大声で論争をいどんでいくつもりはぼくにはない。「やっぱりシマックが好きなんだ」と、小声でつぶやくだけのことである。・・・
〇あとがき 浅倉久志「こっちではコアラやウォンバットやタスマニアデビルとも出会える。でも僕はやっぱり海外SFが好き。訳しまくるぞ」