エイプリルに
由比良 倖

薬を噛んで、私はこの身体から流れ出していく。
助けなら何でも良かった。
別にあなたじゃなくても良かった。
でも、薬も効かなくなって、音楽も鳴らなくなったとき、
あなたは、私にきっと会いに来てくれる。

全てが私を悪化させる。
新しい音楽が必要だ。
「生」とか「死」とかって、本当、大したことじゃないんだよ。

赤いピアノでレの音を弾く。
白い鳥が降りてきて私の肩に止まる。
多くの季節が溜まったままの私の身体。

世界は、
多面的と言うより多次元的。
あるいは口に触れる全てが世界。
あるいは世界はアップル社に買い取られた。
あるいは私は全ての木々に弦を張って歩く。
あるいは私の中に君がいて、君の中に私がいる。
「愛」とは星の裏で、裁縫遊びをする子供たち。

  二時半に起きる。
  ベルが鳴る。
  エイプリルはクラックの世界から、
  車輪のゴムチューブみたいに起き出してくる。

  ジューサーから顔を上げると、
  赤い雲が窓の外を、
  膨らんだ傷口みたいに横切っていく。
  食器棚の中で皿が回り始めて、
  僕は画面のこちら側で、
  彼女の涙を無感情に数えている。

世界は明るい過去。
ガラスの中で宇宙を見ている。
本当、死とか生とか大したことじゃないんだよ。
神さまだけが知っていて、私は知らないこと。
私の左脳の中には図書館があって、
その頁の狭間にあなたはいる。

言葉とは手付かずの屋上。
その鎖にあなたは跨がって、何度も何度も何度も何度も飛び降りようとする。

授業中に失神して、私は外にいた。
空の中で私の身体は砂だった。

音楽を壁に貼る。
それが世界中の牢獄を水浸しにしてくれるよう祈る。
薬が切れかけてきて、何も良くなくて、
私は何度もあなたの肩を揺すぶろうと
願う。

世界なんて切れ端でいいから。

  夜が増える。
  夜が増える。

夜が増えていく。


自由詩 エイプリルに Copyright 由比良 倖 2020-12-29 13:37:46
notebook Home 戻る  過去 未来