黒猫と少年(4)
嘉野千尋
*鉱石ラジオ
暇をもてあました少年が、ふと思いついて鉱石ラジオを作った。
黒猫はそのかたわらで目を細めてその様子を見守っていたが、
いくらたっても何も聴こえてこない。
「また失敗したのね」
黒猫はお気に入りのブランケットにくるまって身を丸めたが、
少年は飽きる様子もなく鉱石ラジオの前で今か今かと待ちわびている。
しばらくすると、天窓から、すっと月光が差し込んだ。
「『七月のアリア』だ」
月光の揺らぎとともに始まったその調べの向こうに、
黒猫はかすかなかすかな波音を聴いた。
黒猫の故郷は、遠い遠い海の向こう。
波音の果てに、赤煉瓦の街並みが、おじいさんの手が、
そして花柄のブランケットが浮かんでは消えた。
「どうしたの」
涙を浮かべた黒猫の目を覗き込んで、少年が尋ねた。
「どうして泣くの」
擦り切れたブランケットの下で身を丸めて、
「これは悲しいことかしら」
と、黒猫は考えた。
少年の細く白い手が、そっと頭を撫でるので、
黒猫は何も言わずに目を閉じる。
鉱石ラジオからは一晩中、
繰り返し繰り返し波の音と『七月のアリア』が流れていた。