ニュートリノを買う
道草次郎

ニュートリノを一つ買った

こないだの事もあるから
今度は慎重だ
骨董屋によくその出処をきくと
そこまでいうならと
裏から鑑定書を引っ張ってきた

ほらご覧なさい
この通り小柴先生の直筆もありますよ
たしかにそこには

〔やればできる〕

と震える手で書かれたような字がしたためられていた
なるほどと思い
店主に代金を払って風呂敷に包んでもらった
鑑定書もオマケしときますね
と最後に店主は言ったがかたく断った

持ち帰り台所のテーブルにおき
風呂敷をほどくと
そこには何も入っていなかった
これはまたいっぱい食わされたな
そう顎に手をやっていると
風呂敷のそこに
小さな紙っぺらが紛れ込んでいるのに気付いた
そこにはこん風な殴り書きがあった

〔見えなくたって在るものは在る〕

うるせえやと思い
ゴミ箱へ銀河に引き続いてのさよなら決定
もっともニュートリノは
あるのかないのかも分からないから
捨てたのか
捨ててないのかもよく分からない

いずれにしろ
我が家のゴミ箱にはいま
マクロとミクロが
仲良く身を寄せ合っていることになっている

さて困った
燃えるものか燃えないものか
プラスチックか資源ゴミか
市の環境課に問い合わせてみると
それは神様に聞いてくださいと
どこかへと
内線を回されただけだった


自由詩 ニュートリノを買う Copyright 道草次郎 2020-11-16 07:32:08
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