極北に立つひと
塔野夏子

私の意識の
極北に立つひとがいる

彼はいつも黒い服を纏い
時にその服を髪を風にたなびかせ
時に無風のなかに
その立ち姿の輪郭をくっきりと映し出し

時に彼は流れる水のような
ゆらめく炎のような声で歌い
時にただ 黙ったまま立ち尽くし

時に彼はしずかにその眸を閉じ
時に彼はあざやかにその眸を見ひらき

その姿は時に遠く また近く見え
けれどいつでも 彼の立つ場所は
まぎれもなく極北なのだ

彼の戴く空はいつも研ぎ澄まされ
時に冷たい極光を 冴えざえとひらめかせ

そして時にその姿が
まざまざと近く見えても
彼という存在は それ自体がひとつの遠さで
だから幾たび その美しい貌を見つめても

私にはいまだにわからないのだ
その眸は いったい何色をしているのか


自由詩 極北に立つひと Copyright 塔野夏子 2005-04-17 13:17:03
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