初恋のようなもの
板谷みきょう

初めて「結婚したい」と
思ったのは16歳の時だった

別の町に住む
別の学校に通う
一学年上の女性だった

狸小路の階上喫茶で
話し合ったり
季節外れの浜辺を
散歩したり

「あたし一生、結婚なんかしない。」
「それじゃあ。ボクが貰ってあげるよ。」

その言葉を果たせぬまま
あの娘は
卒業してしまった

『閏年の夜9時に、電話を掛けます
二度と会うのが嫌なら
電話に出ないで下さい。』

そんな手紙を送って
閏年の夜に
持っていたお金を全部
十円玉に交換して
公衆電話から電話を掛けた

ドキドキしながら
ダイヤルを回し
二度のコールで電話に出たのは
あの娘のお母さんだった

「今、買い物に出てて、居ないんだけど…。」
受話器の向こうの声に
カラカラになっている口で
「そうですか。解りました。」
そうして
ボクは失恋の悲しみ
痛み
苦しみを知った

いつしか
そんな若気の至りのような
恥かしくも甘酸っぱい
懐かしい思い出になった頃
結婚した彼女と再会したけど
お互いに家庭持ちになっていて

「あの時、結婚なんかしない。って言ってたのに
どんな人と一緒になったのさ。」

沢山の質問が、頭を過ぎっては消えて行く


自由詩 初恋のようなもの Copyright 板谷みきょう 2020-10-25 23:31:45
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