気分はもう
六九郎
飲んだ帰りの電車で漏らしたあなたの吐息が
なにか面白いことないかなとなにげなく呟いたあなたの一言が
ポテトチップスの油にてかる唇から吐いたあなたのゲップが
細くたなびき空に登っていく
不安をあおるコメンテーターのけたたましい叫び声が
くだらないとテレビを見て漏らすあなたの失笑が
ネットに書き込んだ嘲笑の後に漏らすあなたの放屁が
黒く細い煙となって立ち上っている
泣き止まない子供に浴びせるあなたの罵声が
親しげな挨拶の代わりに交わされる怒声とクラクションが
閉じられた窓の中で眠る子供たちの最後の寝言が
熱いアスファルトから幾筋も幾筋もゆらゆらと
もうどこにも行けないあなたの誰の賛同も得られない呼びかけが
表層から滑り落ちたまま狭い部屋で暮らすあなたの虚しい独り言が
一体私は何なのだという自分自身への無意味な問いかけが
あなたの頭の上から湯気のように立ちのぼっている
生まれない子供たちの聞こえない産声が
祝われなかったハッピーバースデーツーユーが
生かされ続ける老人達の眠れぬ夜明けの呪詛が
年老いた国で暮らす年老いたあなたが漏らす最後のうめき声が
いつの間にかこの国の上に黒く厚い雲となって拡がっている
分厚い雲に手をかけて
雲の隙間の向こうから
戦争がこちらを見ている