落下する名前
霜天

僕らがあの不確かな情景をそれと呼んでいた頃には
まだ君は躓かない足と目線で
確認済みの経路を泳いでいた
風をよけるような手付きで


あの足跡から
十五番目の通路の奥で
黄色い花が咲いているのを
二十二番目の通路で流されながら
手を伸ばすように見つめている
僕らはその、名前を知らない
重なり合う足元さえも


もう少しの夕暮れ
この街を抜け出すと
それは確かにそこにあった
詰め込むようにして集まった小屋に
僕らが置き去りにしてきたもの

その名前が落ちていく
落ちてしまえば、どこへも帰らないことを
君は泳ぐことをやめて、静かに着地する
僕らはただ、あの足跡から
落ちていくその名前を見ている
間違わないように繋ぎ合った手の先で
誰かが泣いていたのかもしれない


次第に君が薄れていく
それはどこにも無かったのかもしれない
いつか僕らが薄れていく時も
あの花はその黄色い繰り返しを
ただ続けているのかもしれない

落ちていく、その手前で


自由詩 落下する名前 Copyright 霜天 2005-04-17 00:25:18
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