失明砂漠(2013年)
奥畑 梨奈枝

浮腫んだ面で地べた這いずり
頭から水をブッ被る
野良犬の要領で水分を振り飛ばし
苦しい顔に化粧水をまぶす

やり場の無い暴力を散ずるために
善人のふりした土方をしばく
従順なふりしたモード系の女子を
コンクリートに打ち付ける
空が小さくなるので
エンドロールが厭に悲しい

しかし、私は
実に意気地がなくしゃあなく
独りで喫茶店にも入れず
自販機で缶コーヒーを買う
ぼちぼち歩いて或いは転けて
虚しくなったあたりから
缶のタブを起こしておもむろに
平家物語を暗誦す

「祇園聖者の金の声
所業無情の響きあり
晒そう呪の鼻の色
乗車必睡の理をあらわす
奢れる人も庇から頭」

やはりそれでもやる方無くて
しょんぼり自宅に帰り
録画しといたあれを観ることにす
ボンバーヘッド
得点シーンを何度も逃し
センターリングが一本も通らず
そして延長戦後半くらいから
差別的な暴言を浴びせかけて
苛立ちに任せて
親から金をふん手繰る
その金で就活の為の写真を撮りに
ド古い写真館に押しかける
投降せえ取り外し可能なモラルで
人を罵詈雑言の中に埋め立てて
きっちりした証明写真をしばく

腹を空かしてコンビニへ
パンも買わずにトイレを借りる
すると目ん玉が妙にむず痒くなり
鱗が剥げる血も漏れる
そうもせんうちに
片目を落として失ってしまう
途端一瞬にしてそこら一帯は
更地に変わりほんまの
あくどい砂漠がそこに広がって今
君を迎えに行きます
携帯電話のベルが鳴り


自由詩 失明砂漠(2013年) Copyright 奥畑 梨奈枝 2020-10-09 11:33:16
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