違語
すいせい

頸を傾げ
游ぐ白鳥の
鉤括弧を孵化させる


言葉を寄せれば頬が温もる。そうしていくつもの冬を乗り越えてきた。
正義と正義と欲はきっと同じ意味であり、他人のものであるとは到底言い難い。しかし残念ながら私たちのものであるとも言い難かった。私たちが会話する為に言葉は必要で、正義と正義と欲にも本当ならば言葉は必要であった。
夜の中に溶け込むように押し入った。その人と同じ名前ではなく、しかしその人と同じ肌のいろだった。息を殺し気配を殺し私たちは殺した。ともすれば殺されたのは私たちかもしれないし私たちの未来かもしれない。あるいは私たちが遺す子供たちが殺されたのかもしれない。

色を殺して見上げた空は透きとおっていた。

言葉を寄せれば頬は温もる。たくさんの子供たちを生かす為に、私たちは暖炉に火を焚べる。一枚一枚、火の中で踊るかのような言葉たちは私たちと子供たちを温めてくれるだろう。肌のいろも言葉も違うが、すり寄せた頬の温みは確かなものとして、私たちが殺してきたものと釣り合うだろう。なんにせよ冬は深く正しく悍ましく、名を覚えておく事も凍えて散ってしまうのだから。


赤ん坊に乳房を捧げたまま凍りついたひと。商談の最中に儲けを釣り上げようとして凍りついたひと。愛の言葉を告げるように蝋燭の火とともに凍りついたひと。
冬はおそろしい。あるいは鉈を振りかざし手足を切断してしまうのかもしれない。雪に降りかかる血は穏やかに湯気を上げて、もしかすると肌のいろとは時の違いかもしれない。

そうして
あなたたちの脳に銃弾を撃ちこんで、雪が降る
私たちの脳に銃声を刻んで、雪が降る
ふりかかる脳漿が、雪をとかす


血液の隠喩として乳房は言葉を焚べる。透きとおった頬は血に汚されて、私たちは産みなおすのかもしれない。
棍棒を振りかざして、赤ん坊に下ろすひと
片目を瞑り、世界をみるひと

色を殺し見上げた空はうつくしかった。


凍りつく以前の湖で
白鳥が肢を折り曲げる
かき分けられた限りなく透明な
私たちの言葉は
場違いな殺害を
どこまで繰り返すのだろう
いま死んだ
頬の温もりを
知らぬひとが
また
死んだ
そして焚べる
あなたとは違う
私たちの言葉を


自由詩 違語 Copyright すいせい 2020-09-27 00:05:59
notebook Home 戻る